ローカライズとは、様々な文化や国家に属する個人の需要や好みに合わせ、あるコンテンツを現地の文化圏に適した形に変えて提供する一連の過程を指します。ゲーム産業においてローカライズは様々な海外市場を切り開き、より多くのユーザーにゲームを届けるための鍵となっています。

従来は主にゲームを作った会社やローカライズエージェンシー、または現地のパブリッシャーがローカライズ作業を行っていましたが、現在は人工知能(AI)の助けを借りて、以前より簡単にローカライズを進められるようになりました。今回はAIがゲームのローカライズをどのように変化させているのかについてお話します。

1. AI登場以前の伝統的なローカライズ方法

伝統的かつ一般的なローカライズは、翻訳者と編集者(レビュアー、チェッカーなど)を経て行われてきました。この過程には、テキスト原文の翻訳、文化的差異を考慮した翻訳文の修正、そしてゲーム内の画像やグラフィックに含まれるテキストを一つ一つ確認して修正する作業が含まれます。ローカライズの参加者にはゲームの世界観はもちろん、テキストの文脈をしっかり理解して文化特有のニュアンスを活かしたり、ジョークやスラングなどを目標言語に適切に訳すことが求められます。

一般に専門家の言うローカライズは一次翻訳(Translation)、専門家のレビュー(Review)、ネイティブの最終チェック(Proofreading)まで行うことを指しますが、このような伝統的ローカライズは多くの時間と費用がかかり、複数の人間が携わる分、一貫性の維持や各種ヒューマンエラー(Human Error)を最小に抑えるのが最も重要とされていました。

2. AIを用いたローカライズ方法

AIベースのゲームローカライズは機械学習(Machine Learning, LM)と自然言語処理技術(Natural Language Processing, NLP)を利用して翻訳のスピードと効率を高めています。AI翻訳システムは大量のデータを学習し、特定のジャンルやスタイルに合わせた訳を生成する能力を持っています。このシステムは自動化された翻訳メモリ(Translation Memory, TM)を構築することで一貫性のある翻訳を提供し、作業をリアルタイムで行うことで開発を素早くサポートすることができます。また、完璧なレベルには至らずとも、ゲーム内の様々な要素を読み取り、文脈に合った訳を提案することもできます。

ゲームローカライズに用いられる翻訳ソフトウェア(Computer-Assisted Translation tool, CAT tool)も先を争うようにAI翻訳機能を実装する流れが来ているため、専門会社だけでなく個人の翻訳者も一定の額を支払えば複雑な設定などもなく手軽にAI翻訳を利用できます。

3. ゲームローカライズにAIを利用する場合の長所と短所

AIを利用したローカライズはAI技術の発展に伴って改善され続けており、究極的にはすべての面において人間を超えると業界は予想しています。しかし、現段階では精度が不十分であるため、選択的に活用する際の参考になるよう、AIローカライズの長所と短所について調べていきたいと思います。

長所:

  1. スピードと効率:AIローカライズの最も大きなメリットです。AIは大量のテキストを短時間で翻訳することができ、反復作業を自動化することで効率を高めることができます。
  2. コストカット:スピードだけでなく費用面での効率も魅力的な要素です。人間の翻訳者による翻訳に比べてコストを大幅に節約できます。
  3. 一貫性:AIは翻訳メモリや用語集さえ与えられれば、規定された用語を間違いなく使用することができます。
  4. スケールの柔軟性:AIはプロジェクトの規模に関係なく迅速に処理することができ、言語の数も制限なく増やすことができます。

短所:

  1. 不完全な文脈理解:AIは、複雑な文脈や文化的なニュアンスを人間ほど上手く理解することができない場合があります。特にゲームの場合は字幕や書籍、一般的な文書と異なり、文脈を極めて把握しづらい形式でテキストが提供されるため、この短所が最も顕著に現れてしまいます。
  2. 今なお欠かせない人力:AI翻訳の結果も依然として人間による確認・修正が必要な場合があり、これはさらなる時間と費用を発生させます。スピードが速い代わりに追加の修正に時間がかかり、最終的には大した時間短縮にならない可能性もあります。費用面でも一次翻訳のコストは節約できても、逆にチェックにかかるコストが嵩んでしまうおそれもあります。
  3. 創造力の不在:AIは人間の翻訳者に比べてクリエイティブな表現や冗談、隠喩などを自然な形で処理することができない可能性があります。これは最初の短所(不完全な文脈理解)にも起因するもので、結果的には満足のいかないクオリティのローカライズになる可能性があります。

4. 結論

分野を問わず、AIは逆らえない流れであることは否定できません。そして先程言及した通り、いつかは全ての面において人間の出す成果を超えてくるでしょう。実際、すでにITや一般的な文書においてはAIローカライズで相当なクオリティが出ています。しかし、今回の主役であるゲームの場合、テキストの性質上AIはクオリティでかなり遅れを取っているのが現状です。

相対的に速い処理スピードとコスト節約を重視するなら、AIを用いたゲームローカライズは良い選択肢となるでしょう。しかしローカライズのクオリティが最優先の場合、現段階では伝統的なローカライズを選ぶのがベターであることは自明です。ある程度の分量なら誰でも無料でAI翻訳を利用できるので、ローカライズしたいゲームのテキストを直接AIで訳してみてクオリティを確かめるのも一つの判断材料になるでしょう。

現在、ほとんどのローカライズ企業はAIを用いた翻訳サービスを提供しています。AIローカライズはテキストの難易度やスタイルだけでなく、ゲームのジャンルによっても結果にかなりのバラつきがあるため、十分な相談とサンプルテストなどをもとに適切なローカライズパートナー、適切なサービスを選ぶことをおすすめします。